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アルコール関連問題

2003年11月8日にASKが開催したFASD国際シンポジウムでは、アメリカから二人の専門家を招きました。FASD研究の第一人者であるエドワード・ライリー博士と、障害児教育スペシャリストであるデブラ・エベンセン氏です。
以下は、両氏の講演やフロアとの質疑をもとに、ASKで再構成した報告内容です。

胎児性アルコール症候群(FAS)と
胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)

妊娠中に多量に飲酒した母親から生まれた子どもに、
(1)特徴的な顔貌(不明瞭な人中/薄い上唇/短い眼瞼裂など)
(2)発育の遅れ
(3)中枢神経の問題
という3つの兆候が現われる例が1960年代末から報告され、1973年に「胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome = FAS)」と名づけられました。

さまざまな調査が行なわれた結果、アメリカでは現在、新生児1,000人あたり1~2人のFAS児が生まれていると言われます。ことに、飲酒問題が急激に深刻化した先住民(イヌイットやネイティブ・アメリカン)の間ではFAS児の出生率がさらに高く、たとえばアラスカ先住民では1000人あたり5.6人なっています。各国での調査から、国や民族に関わらず、女性がアルコールを乱用する社会ではFAS児の出生が避けられないことが明らかになっています。〔日本では1991年に、1000人に0.1~0.05人と推定(田中晴美ら)されましたが、その後は調査が行なわれていません〕

一方、FASにみられる特徴的な顔貌がなくても、胎児期にアルコールにさらされたことによる中枢神経の問題(刺激への過反応・注意力の問題・変化への適応困難・学習障害・判断力の問題など、行動障害として現れる)を抱えた子どもたちの存在が注目されました。アルコールに関連するさまざまな身体の障害(心疾患・関節の形成異常など)も浮かび上がっています。そのため「胎児性アルコール作用(Fetal Alcohol Effect = FAE)」「部分FAS(Partial FAS)」「アルコール関連神経発達障害(Alcohol-Related Neurodevelopmental Disorder = ARND)」「アルコール関連先天性障害(Alcohol-Related Birth Defects = ARBD)」などの用語や診断名が使われるようになりました。

こうしたアルコールによる胎児の障害を連続的にとらえる概念として登場したのが、「胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders =FASD)」です。「問題は顔ではなく、脳である」という視点の転換が、その背景にあります。FASに特徴的な顔貌は、胎児の器官が形成される妊娠初期に大量のアルコールにさらされたためと考えられますが、脳は妊娠全期間を通じて発達を続けます。目に見える障害がなくても、脳がアルコールの影響を受けた結果、さまざまな行動障害となって現われる例は少なくないのです。

(以上、エドワード・ライリー博士の講演をもとにASKで構成)

妊娠の週数と胎児の発達

アルコールが胎児にどれほどの影響を与えるかは、飲酒量だけでなく、母親の年齢・出産回数・栄養状態・体重・飲み方・アルコールへの感受性・喫煙の有無などによっても変わってくると考えられ、今も研究が続けられています。実際、上の子より下の子に障害が重く出るケースがよく見られます。

胎児のアルコールへの感受性も、カギとなっているようです。双生児のケースで、同じ量のアルコールにさらされていたはずなのに、一人は影響を強く受け、もう一人はさほどではない、ということもあるのです。

 飲み方としては、血中アルコール濃度が高くなるほど(早いピッチで飲む、強い酒を飲む、空腹時に飲む、大量に飲むなど)胎児へのリスクは高まるだろうと考えられていますが、食事をしながらゆっくり飲めば安全という保障はありませんし、安全量もわかっていません。
このようなわけで、今のところ、「安全のため、妊娠中は飲酒しないようにしましょう」としか言いようがないのです。

 ただし、妊娠中に飲酒したら、即、子どもに障害が出るということでもありません。何の影響もない場合もあること、だからと言って、次の妊娠でも飲んで大丈夫というわけではないことを覚えておいてください。

(以上、エドワード・ライリー博士の講演をもとにASKで構成)

妊娠の週数と胎児の発達

胎児の器官や臓器が形成されるのは、主に妊娠初期です。ただし脳は妊娠全期間にわたって成長を続け、ことに妊娠後期には一生のうちもっとも盛んに発達します。

胎児の発達におけるアルコールの影響

(デブラ・エベンセン氏の資料をもとにASKで構成)

アルコールが胎児の脳に与える影響

MRIなどの画像診断によって、アルコールが胎児の脳にどんな影響を与えるかが明らかになってきました。胎児性アルコール症候群(FAS)の診断基準を満たしていなくても、妊娠中にアルコールにさらされた子どもに同じような影響が見られることもわかっています。

まず判明したのは、脳全体の体積がアルコールの影響を受けていない子どもに比べて小さいことです。わずかではありますが、有意な差があることが確認されました。そして研究が進むにつれ、脳の中でも特に影響を受けやすい部位が特定されつつあります。

ひとつは脳梁です。これは左右の脳をつなぎ、両者のバランスある働きを支えて複雑な状況への対処を可能にしています。アルコールの影響によって、この脳梁の変形や萎縮が起こるだけでなく、脳梁がまったく存在しない場合もあることがわかりました。

次に小脳です。運動やバランス感覚を司るだけでなく、注意力・集中力にも関わっています。アルコールの影響により小脳の体積が減少していること、中でも小脳虫部と呼ばれる領域の萎縮が激しいことがわかっています。

また、大脳基底核の体積減少も報告されています。特に、尾状核に萎縮が目立ちます。前頭葉―尾状核・被核―淡蒼球―視床をめぐる神経回路は、物事の計画を立てて行動するという「実行機能」を司っています。大半のFAS児はIQが正常範囲であるにもかかわらず、与えられた課題を実行するにあたってさまざまな困難にぶつかります。それは、実行機能を司る回路の問題が大きいと考えられています。

 こうした脳の萎縮や形状のゆがみは、さまざまな行動上の障害(刺激への過反応・注意力の問題・変化への適応困難・学習障害・判断力の問題など)として現われてきます。もともと脳というのは非常に傷つきやすい臓器であり、アルコール以外にも、妊娠中のさまざまな状況、生後の栄養状態や感染、外傷などによって影響を受けます。けれど大事なことは、アルコールによる脳への影響は、飲酒さえしなければ100%防げるということです。

(以上、エドワード・ライリー博士の講演をもとにASKで構成)

ASKリバーシブル予防パンフ①『妊娠とアルコール/女性とアルコール』
※アスク・ヒューマン・ケアのホームページに移動します

ASKリバーシブル予防パンフ①『妊娠とアルコール/女性とアルコール』

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