アルコール・薬物・その他の依存問題を予防し、回復を応援する社会を作るNPO法人「ASK(アスク)」の情報発信サイト

依存症って何?

依存の問題が進行していくとき、当事者や家族にどのようなことが起きるでしょうか。
典型的なプロセスを見ていきましょう。

当事者に起きること

 

スタート地点「習慣が始まる」

飲酒や薬物使用、あるいはギャンブルなどの行為によって、リラックスしたり高揚感を味わうなど、気分の変化を体験する。
気分の変化を求めて物質使用や行動を繰り返し、徐々に習慣となっていく。
自分の意志でいつでもやめられると感じている。

依存症との境界線「習慣が定着する」

ほぼ毎日決まった時間に飲酒したり、決まったタイミングで薬物使用のチャンスを作ったり、決まった時間にパチンコ屋に出かけるなど、習慣が定着する。
その間は気分がハイになり、そうでない日常の時間は「次のチャンス」に気をとられることも多くなる。
気がつくと、そのことに費やす時間や量や頻度が増えているが、まだいつでもやめられると感じている。

依存症の初期「問題の発生」

身体的・精神的・活動的な面で、本人の日常に支障が出始める。
たとえば――
それをしていない間、イライラして落ち着かない。
そのことに時間や金銭やエネルギーを費やし、日常のバランスを失っていく。
他のことへの興味を失っていき、役割が果たせなくなったり、周囲との関係が希薄になったり、学業など成長のためのチャンスを逃してしまう。

依存症の中期「さまざまなトラブルの表面化」

問題やトラブルが、本人だけでなく周囲の人にも及び始める。
たとえば――
なんとかやめさせようとしたり「ほどほど」に制限しようとする家族や友人に対して、問題を認めず口論になるなど関係が悪化する。
周囲に対する暴言・暴力が始まる。
周囲に隠したり、嘘をつく。
無断欠勤・欠席などが問題化する。
借金など金銭トラブルが表面化する。

こうなると本人も「今のままではまずい」「なんとかしなければ」と感じているが、状況の悪化によるつらさから、いっそう依存へと逃避せざるを得なくなる場合が多い。

依存症の後期「社会生活の破綻」

周囲との関係が破壊され、失職、退学、離婚にいたる場合も。
依存の対象からはもはや快感は得られず、「やってもつらい、やらないともっとつらい」といった追い詰められた状態になっていく。
物質依存の場合には、臓器疾患など深刻な関連障害も起きる。

 


 

依存症の種類によっては、一定割合の人が「自然治癒」、すなわちこうしたプロセスの途上でUターンしていくといわれています。
Uターンできずにこのまま進行していけば、自殺や病死・事故死など、まさに「死に至る病」となります。
けれども、どん底を経験しながらも回復している人は大勢います。
回復のためには、周囲からのあたたかい「介入」が必要です。


介入は、どん底まで待たずに、早ければ早いほうがよいのです。
そうすれば本人も周囲の人も、失うものが少なくてすみます。
その分、社会復帰や関係の再構築もしやすくなります。
ASKが長年にわたり「早期介入・早期治療」を働きかけてきたのはそのためです。

家族に起きること

 

巻き込まれる

問題をなんとかしようと一生懸命になり、説教したり、行動を監視したり、失敗の後始末をするようになっていく。
けれど、やってもやっても事態はよくならない。
それどころか、むしろ本人の依存は進行していく。
なぜかというと、失態を誰かがカバーしてくれたり、自分の問題に誰かが必死になってくれれば、自分で自分の責任をとらなくてすむからだ。
このように、結果的に病期の進行を助けてしまう行動を「イネイブリング」と呼ぶ。
家族にとっては、なぜこんなことになるのか理解できず、心配のあまり本人の一挙一動に感情が大きく揺れる。こうして、病気にどんどん巻き込まれていく。

あちこちから責められる

本人に注意すると、「うるさい!」「放っておいてよ!」など反発の言葉が返ってくる。
それだけではない。
他の家族や親族からも「嫁がきつすぎるから……」「親の育て方が……」などと責められたりする。
また、子どもの問題をめぐって「お前が甘やかしたから」「あなたが家庭に無関心だから」など両親が互いを責めあってしまうことも多い。
さらに相談や診察の場でも、「お母さんが……だから」「もっと早く……していれば」「……しないとダメじゃないですか」のように、まるで家族が悪いかのように言われてしまうことも。

隠す

問題があることがわかると、「ご近所に恥ずかしい」「仕事に支障が出るかもしれない」「親戚からあれこれ言われる」などの不安から、事実を隠さざるを得なくなることも多い。
中でも違法薬物の問題などは、「もし逮捕されたらどうなってしまうのか」など家族の不安は非常に大きい。
こうして心配ごとを誰にも言えず、家族は孤立していく。
家庭内でも、たとえば夜中に暴力をふるわれたのに、翌朝は加害者の父親も被害者の母親も子どもの前で何もなかったかのように振るまうなど、「隠しごと」が増えていく。
事実を言わないようにする、つらさを感じないようにする、他人を信じなくなる、という構造の中にはまっていくのだ。

消耗する

自分のことは後回しで問題をなんとかしようとしているうちに、家族はこの問題以外の物事への関心を失い、周囲を見る余裕もなくなっていく。
誰にも助けを求めることができず、理解してもらえず、孤軍奮闘する日々が続くうちに、心身ともに疲れ果ててしまう。
そして、自分がどれだけ疲れ果てているかということさえ、自覚できなくなっていく。

 


 

これは多くの家族が陥る状態です。
そしてこのように「閉じられた」状態が、依存症からの回復のチャンスを遠ざけ、事態をさらに悪化させていきます。
本人が悪いのでも家族が悪いのでもありません。
それが依存症という病気が引き起こす、悪循環のサイクルなのです。


問題解決のためには、まず、この閉じたサイクルから抜け出す必要があります。
具体的にはどうしたら……?
次のページで考えていきます。