大人にも役立つ、思春期向けのライフスキル・コラムです。
――人づきあいの土台となるスキル
「境界」とは、自分と他人とを分ける境目のこと。
どんなに親しい間柄でも、境界は必要です。
親友どうしでも好みが違うことはあります。「何もかも全部一緒でなければイヤ!」というのは境界がない状態。
親子の間でも境界は必要です。もしも「自分の○○に口を出してほしくない」「ノックもせずに部屋に入ってほしくない」とあなたが感じているとしたら、それがあなたの大切な境界なのです。
自立した人間として生きていくためには、どこかに境界を設定することが必要です。
境界がないと、他人の言うなりになってしまったり、自分のプライバシーが侵害されていることに気づかなかったりします。
あるいは相手の境界を無視して、すべて自分の思い通りにさせようとしたりします。
境界は、ガッチリした壁とは違います。
自分の周囲に高い壁を作って他人を締め出してしまったら、相手の姿も見えなくなるし、自分の気持ちも伝わりません。
境界とは、上げ下げ自由なもの。
危険な人がやってきたら思い切り境界のレベルを上げるし、大好きな友だちがそばにいると自然と低くなる。でも疲れていて口をききたくないときは、少し上げておく。
そうやって自分で決めて調整できることがかんじんなのです。
【ヒント1】体の境界をチェックしよう
境界には大きく分けて、体の境界と、心の境界があります。
私たちは他人があまりに自分の体に近づくと、不安・不快になります。満員電車でストレスを感じるのは、体の境界を侵されているからです。
境界は、人によって違います。
あなたが「ここまでならOK」と感じるところ、それがあなたの境界です。
肩をポンと叩かれて、親しみを感じることもあれば、イヤだなと思うこともあります。
イヤだと思うときは、境界を侵されているのです。
自分の持ち物に勝手に触ってほしくない、というのも大切な境界です。
親が部屋に入るのはイヤ、という人もいるし、机の中を見なければかまわない、という人もいます。どこで境界を引くかは、あなた自身が決めることです。
性的な境界は、あなたの人間としてのプライドや安全に関わるものです。
たとえば「オッパイ大きいね」と言われて不快に感じるのは、境界を侵されたから。
あなたが誰かとつきあっているとしても、どこまでの接触を許すかは、あなたが決めることです。特にセックスには妊娠のリスクや性感染症の危険がともなうことを知っておいてください。
あなたの「ノー」を相手が聞いてくれないとしたら、それは相手があなたの境界を踏みにじっていることになります。
【ヒント2】心の境界を見分けよう
心の境界は、目には見えません。
気持ちや考え方についての、他人と自分との境界線です。
小さい頃には、この境界は存在せず、お母さんと自分が一体だったり、周囲と自分とがなんとなく一体になっていたりしました。けれど思春期になると、「自分と相手とは別の人間だ」ということがはっきりわかるようになります。
だから、孤独を感じます。
この孤独がつらくて、親友といつも一緒にいて何もかも同じにしようとしてみたり、親にもう一度甘えたくなったり、恋人にいつもそばにいてほしいと願うかもしれません。
けれど結局、相手と自分とは違うのです。
どんなに仲のよい相手でも、自分と同じように感じるとは限らないし、考え方も違います。
親友と大事なことを話しているのに、結論が出ずに平行線のまま終わることだってあります。
楽しくないのに相手に合わせて楽しいふりをする必要はありません。
「つまらない人」と思われないために話をとりつくろう必要もありません。
あなたは、あくまであなただからです。
逆に、あなたが大好きなことに友人が興味を示さないことだってあります。
先生や親など、大人の言うことがすべて正しいと思う必要もありません。
あなたにはあなたの考え方があっていいのです。
大切なのは、自分で決めるということ。
自分の決めたことは、結果がうまくいかなくても他人のせいにしない。これも、大切な心の境界です。
【ヒント3】侵入を防ごう
体の境界を守りましょう。
相手が近づきすぎたり、体に触れてきてイヤだなと感じたら、あなたはどうしますか?
たとえ相手が善意であっても、あなたがイヤなことはイヤと表明していいのです。
●スッと一歩うしろに下がって距離をとる
●相手に手のひらを向けて、近づくのを阻止する
●正面ではなく横を向く
(正面で向き合うより、肩を並べた位置のほうが、接近しても不快に感じないものです)
●「触らないでほしい」と言う
●その場を立ち去る
考え方を押しつけたり、あなたを思い通りにさせようとする相手に対しては、次のような方法で境界を守りましょう。
●はっきり「ノー」と言う
●「自分を尊重してほしい」とはっきり伝える
●自分の考えを、相手がわかってくれるまで断固主張する
●相手に会う回数を減らしたり、SNSや電話やメールなどのやりとりを控える
●敬語やていねいな言葉を使うなど、心理的な距離をとっていることを態度で示す
【ヒント4】相手への侵略をやめよう
私たちは、つい自分の都合ばかり考えて相手の境界を侵略してしまうことがあります。
また、善意のつもりで境界を踏みにじってしまう場合もあります。
たとえば友人に対して、次のようなことをやっていないか振り返ってみましょう。
●相手の持ち物を自分の物のように扱っていない? たとえば、断わりなくスマホを覗き見るなど。
●相手の時間を占領していない? 都合を聞かずに電話で長々と話す、自分の用事にばかりつきあわせるなど。
●相手がやるべきことまで、あれこれ世話をやいていない? 「カレにこう言いなよ」「私がやっておいてあげる」と、先走ってどんどん決めてしまうなど。
●知りたがりになっていない? 昨日誰とどこへ出かけたか、友だちならすべて報告するのが当然だと考えているなど。
●なんでも期待通りにしてほしいと思っていない? たとえば自分と会わずに別の友人と出かけたことを責めるなど。
●好みを押しつけていない? 自分が夢中になっているものに相手が興味を示さないと、不満を感じたりバカにするなど。
●考え方をおしつけていない? 「そんなふうに感じるなんて絶対ヘンだよ」「どうせあなたには無理」と決めつけるなど。
【ヒント5】親密な関係って?
友人関係でも恋人でも、もちろん親子でも、仲がいいのと「相手と一体化する」のとは違います。健康で親密な関係とは……?
●私は私のままでいい
いいふりをしたり、相手のために無理をすることなく、そのままの自分でつきあえる。
お互いの弱さを受け入れられる。
●自分のことは自分で決める
相手に引きずられるのではなく、どうしたいのか自分で決める。
決めたことがうまくいかなくても相手のせいにしない。
●一緒に楽しめる
ともに過ごす時間を持ち、その機会をお互いに大切にできる。
●別々でも楽しめる
お互いに、別の友人と過ごしたり、一人で楽しむこともできる。
相手の自由を束縛しない。
●問題を話し合える
関係に問題が起きたり誤解が生じたときは、率直に話し合える。
●支えあう
相手がつらいときはそばにいてあげたり、話を聴いてあげる。
●成長を認め合う
相手の成長を心から応援し、喜ぶことができる。
お互いに新しいことに興味をもったり、考え方が変化していくことを認める。