WHOによる診断ガイドライン
WHOの疾病分類「ICD」では、アルコールやドラッグなど「精神作用物質」の依存症候群について診断ガイドラインを定めています。
2020年現在適用されている「ICD-10」では、次の6項目のうち3項目があてはまれば依存症と診断です。
(ここではわかりやすいよう「物質」をアルコールに置きかえて説明しています)
強迫的飲酒欲求
飲みたいという強い欲求がわきおこる。
コントロール障害
飲酒の開始や終了、また飲酒量に関して、行動をコントロールするのが難しい。4ページ「飲酒に関するコントロールの喪失」を参照。
離脱症状
飲酒を中止したり減量したときに離脱症状が出る、こうした症状をやわらげたり避けたりするため飲酒する。5ページを参照。
耐性
かつてと同じ量では酔わなくなる、酔うためにより多く飲む。
飲酒中心の生活
飲んでいる時間や酔いをさますための時間が増え、それ以外の楽しみや興味を無視するようになる。
有害な結果が起きても、やめられない
たとえば過度の飲酒による肝臓障害、抑うつ気分状態、認知機能障害など、明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として飲酒する。
2022年から発効の「ICD-11」(日本での適用時期未定)では診断項目がコンパクトに集約され、下記3項目のうち2項目があてはまれば、依存症と診断します。
●コントロール障害
●飲酒中心の生活
●生理学的特性(離脱症状や耐性など)
アメリカ精神医学会の診断基準
アメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」では、それまであった「アルコール依存症」の病名をなくす改訂が行われました。
従来は、アルコールやその他の薬物の「使用障害」が「依存」と「乱用」に分かれていましたが、その区別をなくして「使用障害」でひとくくりとなったのです。
診断基準は、従来の「依存」「乱用」の内容をほぼ貼り合わせたものです。
DSM-5 【アルコール使用障害】診断基準の概要
以下の2つ以上が、12ヵ月以内に起きる
・意図したより大量、または長期間に使用
・使用を減らしたり制限しようとするが成功しない
・アルコールを得るため、使用するため、そこから回復するために多くの時間を費やす
・渇望
・反復的な使用により、職場・学校・家庭で責任を果たせない
・社会的、対人的な問題が起き、悪化しているにもかかわらず使用を続ける
・私用のために社会的、職業的、娯楽的活動を放棄したり縮小している
・身体的に危険な状況でも使用を反復
・身体的、精神的問題が悪化していると感じていても使用を続ける
・耐性
・離脱症状
日本では公的な診断にはICDが使われており、DSMは主として研究用です。
医療現場ではほとんどの場合「アルコール依存症」が使われており、使用障害の概念が定着する可能性は未知数ですが、DSM改訂に際しては、日本の関係者から次のような声も上がりました。
「依存と乱用の線引きをなくせば早期介入の役に立つ」
「依存症という言葉には人格的な偏見がつきまとうが、使用障害ならスティグマになりにくい」
「使用障害という概念は病態を使用者の責任に帰してしまい、物質自体の依存性を見えにくくする」
「自助グループに混乱を引き起こす」