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依存症って何?

行為依存とは、特定の行為から得られる刺激や安心感にのめりこみ、やめられなくなって、日常に支障を生じている状態をさします。
たとえば、ギャンブルの興奮、SNSで人とつながっているという安心感……これらが依存を招く場合があるのです。
長いこと、物質依存と違って行為依存では身体への影響は起きないとされてきました。しかし近年の研究ではギャンブル依存症者の脳の活動や構造に変化がみられることが明らかになっており、さまざまな行為依存の形成に脳内の神経ネットワークや神経伝達物質がからんでいる可能性がみえてきました。
一方、行為依存が進行しても、アルコールやその他の薬物と違って肝臓をこわしたり末梢神経がやられるなどの「身体症状」が現われにくいため、外からは気づかれにくいことがしばしばです。
しかし多くの行為依存は、経済的な問題や、時間を多く費やすことによる仕事や学業への悪影響、人間関係上の問題、また場合によっては犯罪も引き起こし、その人の人生に深刻な影響をもたらします。
代表的な行為依存についてご説明します。

 

ギャンブル依存症(パチンコ・パチスロ依存症)

日本では賭博は違法とされていますが、その例外として、競馬・競輪・競艇・オートレースの公営競技、宝くじ、スポーツ振興くじ(サッカーくじ)があります。
また、パチンコ・パチスロはホールでは換金を行なわない「三店方式」のため、賭博ではないとされていますが、実態としては日本のギャンブル依存症の8割近くを占めるといわれます。
さらに現在、カジノを解禁するIR関連法をめぐる動きも進んでいます。
2016年、厚生労働省にアルコール健康障害・薬物依存症・ギャンブル等依存症の「依存症対策本部」が設置され、その実施要項にもとづいて国と自治体での対策が始まっています。なおギャンブル「等」依存症となっていますが、「等」はなにかというと、公式にはギャンブルではないとされるパチンコ・パチスロなどをさしています。

ギャンブル依存症は、借金問題が深刻になりやすいことが特徴です。
家族が必死の思いで返済を肩代わりしたことで結果的に依存を進行させてしまったり、生活破綻にまきこまれたりすることがしばしばあり、支援においては「借金をどうしたらよいか」についての知識が欠かせません。

なおアメリカ精神医学会の診断基準「DSM」では、従来は「衝動制御の障害」の分類で「病的賭博Pathological Gambling」とされていましたが、2013年の「DSM-5」でアルコール・薬物の使用障害と同じ「物質関連障害および嗜癖性障害群」に移されました。
物質依存以外では初めての、「依存症の分類」への仲間入りです。病名は「ギャンブル障害 Gambling Disorder」となっています。
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FX(外国為替証拠金取引)や株取引、商品先物取引など

資産運用として行なっていたFX(外国為替証拠金取引)や株式の取引が、いつの間にか熱くなってしまい過度なのめり込みにより依存を進行させてしまうケースもあります。
「次はきっとうまくいくはず」や「マイナス分を取り戻さなければ」という思考は、ギャンブル依存症で生じる思考と近く、金銭トラブルや家族トラブルが起きやすくなります。
ギャンブル依存症の自助グループ「GA」には、これらの取引へののめり込みによってギャンブル依存症と診断された当事者も参加しています。

ゲーム依存症

WHOの国際疾病分類「ICD」やアメリカ精神医学会の診断基準「DSM」では、今後研究が必要な病態あるいは次の改定時に診断基準を検討するものとして「ゲーム障害」があげられています。
海外では、オンラインゲームの長時間プレイによってエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)を引き起こし、死亡した例も報告されています。
オンライン・オフラインを問わず、スマートフォンのアプリゲームなども過剰なのめり込みが問題化しており、早急な対策が求められる分野です。
オンラインゲームの多くはクレジットカード決済であり、借金をしているという自覚がないまま消費が行なわれていくことも問題のひとつです。
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インターネット依存症

ゲーム以外にも、インターネットで提供されるさまざまなサービス(SNS・動画など)には、そのサービスへの過剰なのめりこみによる依存のリスクがあります。
長時間利用にともなって他の必要な活動に支障をきたしたり、ネット上の活動による気分の変動が大きくなり価値観を左右すること、さらにネット依存特有の健康被害として固定された姿勢による骨の変形、集中力・運動能力の低下などが言われています。
その他にも、インターネットで知り合った第三者との間で、犯罪に巻き込まれたり、気軽な気持ちから犯罪に関与してしまったりするリスクもあります。
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買い物依存症

買い物で気を紛らわしたり、後から考えるとそんなに必要でもないものをつい買ってしまったり、または過去に買ったものを再度買ってしまうなどの症状が買い物依存症の特徴です。その背景には、買い物をする刺激によってストレスやむなしさを解消していたり、自分の価値を買い物によって高めようと必死の努力を重ねていたりすることがあります。
依存の進行にともなって、クレジットカードの限度額いっぱいまで買い物をしたり、リボ払いの支払いがかさむなど、財政的な問題が起きる場合がしばしばです。

性依存症

セックスへの依存だけでなく、その人が性的興奮を感じる行為全般(自慰行為やポルノへの耽溺、フェティシズムなど)への依存をさします。
不安やストレス、むなしさなどから逃れるため、こうした行為で得られる快感によって、いわば「自己治療」しようとすることにより、依存が進行します。
社会的なトラブルや、痴漢などの犯罪につながる場合もあり、家族も含めたサポートが必要ですが、支援の場はまだ非常に限られています。

窃盗癖(クレプトマニア)

いわゆる万引き依存です。近年、有名人の万引きが報じられるなど、話題になっていますが治療・支援の場は不足しています。

WHOの国際疾病分類「ICD-10」では、「習慣および衝動の障害」の分類で病的賭博・病的放火とともに「病的窃盗 Pathological Stealing」とされています。
アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」では「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」という穏やかならぬ名称の一群に分類され「窃盗症 Kleptomania」の診断名です。診断基準として、窃盗に及ぶ直前の緊張の高まりや、窃盗に及ぶ際の快感や解放感などがあげられ、放火症と同じような高揚感が強調されています。

ただし、クレプトマニアの治療を行なっている赤城高原ホスピタルの竹村道夫院長は次のように述べています。
「クレプトマニアは放火症よりもギャンブル依存に近いと私は考えています。病態をよく知らない人は放火による高揚感からの連想で、実用と無縁なものを万引きして高揚感を得るというイメージがあるようですが、これは誤解です。実際にはほとんどの人が万引きしたものを使うし、自分が使うものを万引きします」
「経済効果が第一目的ではないが、経済と切り離せないのです。これはギャンブルが、経済効果を考えての合理的行動ではないが、勝ちたいという経済目的から切り離せないのと同質です」
「ギャンブル依存との大きな違いは、クレプトマニアの依存対象が犯罪行為だということ。しかも違法薬物とも違って直接の被害者がいる犯罪だということ。司法が関わるからこそ、刑罰だけに終わらず、同時に病気としての治療の必要性が理解され介入が行なわれることが大切です」
※季刊『Be!』116号より抜粋・改編

自傷癖

リストカットや抜毛、頭を壁に打ち付けるなどの自傷行為もアディクションの一つととらえることができます。
日本の調査でも海外の調査でも思春期の1割前後がリストカットなどの自傷を経験するとされ(男子では5%前後、女子では15%を超えるデータが多い)、この行為自体は決してめずらしいものではありません。
それがエスカレートし、やめられなくなっていく背景に何があるのでしょうか?

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター内の「薬物依存症治療センター」センター長・松本俊彦医師は、次のように説明しています。

「自傷行為をくりかえす者の55~75%は『つらい感情をやわらげる』ことを目的としています。激しい怒りや不安、緊張、気分の落ち込み……本来は、誰かに助けを求めたり相談したりすべきところを、自分ひとりで苦痛を解決しようとしているのです」
実際に、自傷行為をくりかえす人の場合、自傷の直後に脳内でエンケファリンやβエンドルフィンといった神経伝達物質が急激に分泌されるとの研究もあります。
しかし、自傷による「心の痛みの緩和」は一時しのぎにすぎず、くりかえすうちに薬物依存と同様に耐性が生じていきます。
つまり当初と同じ「鎮痛効果」を得るためには、自傷の頻度や強度を高めざるを得なくなります。それにともない、周囲の無力感が刺激され、やがて怒りや敵意を引き出してしまうこともしばしばです。
「この段階に至る頃には、多くの人が『消えたい』『死にたい』という考えにとらわれています。要するに、自傷行為は『その瞬間を生きのびるために』くりかえされながら、逆説的に死をたぐり寄せてしまう『死への迂回路』ともいえる行動なのです」

松本医師は援助者へのアドバイスとして次の3点を挙げています。
*自傷行為がすぐにはやめられなくても、見捨てずに粘り強く関わり続けること
*本人の自傷行為に翻弄され疲弊している家族を支援すること
*援助者がチームで対応すること

※くわしくは季刊『Be!』増刊号No.21『「死にたい」「生きたい」――の間に何があった?』をお読みください。
季刊『Be!』増刊号No.21『「死にたい」「生きたい」――の間に何があった?』

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