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薬物乱用・依存

医師に処方された薬がきっかけになって、処方量以上にまとめて飲んだり、多種多量の薬を求めて医者をハシゴしたり、あるいは違法に入手したりして、依存を進行させる場合があります。
それだけではありません。
処方された量を守って服用しているのに、依存に至ることもあります。そろそろやめようと思って薬を減らそうとしたり服用をやめようとすると、苦しい症状が出てやめられない……。これを「常用量依存」と呼びます。

「抗不安薬をずっと飲んでいるけれど、私は処方薬依存?」

「子どもが精神科にかかって、軽いうつと言われたが、薬の量や増えるばかりで、よくなっていないし、別の精神科でも薬をもらっているようだ。薬物依存になってしまったのでは?」

「夫はアルコール依存症で入院後、断酒は続いているけれど3年たっても安定剤と眠剤が手放せない。そのことを言うと、あれこれ言い訳ばかりで、まるで飲酒していた時代と同じ……」

こんな疑問や不安、悩みを持つ方のために、季刊『Be!』105号より、赤城高原ホスピタル院長の竹村道夫医師の解説を抜粋・一部改編して掲載します。

「ベンゾジアゼピン系の薬」は安全?

抗不安薬(安定剤)や、いま主に処方されている睡眠薬(眠剤・睡眠導入剤)は、「ベンゾジアゼピン系」の薬です。
いずれも同じようなしくみで働きますが、気持ちを鎮める効果と、眠くなる効果のどちらが強いかによって、抗不安薬と睡眠薬の区別があります。

かつて睡眠薬の主流は「バルビツール酸系」でした。これは、使っているうち量を増やさないと効かなくなり(耐性形成)、やがて効果の出る量が致死量に近づいてしまう、という問題がありました。
代わって登場したベンゾジアゼピン系の薬剤は、耐性が生じにくい安全な薬として、一気に広まりました。

しかし欧米では1980年代から、処方について注意が喚起されるようになりました。
臨床用量の範囲であっても長期に服用すると「身体依存」が形成されるため、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期投与は例外的になったのです。
私自身も、急性の症状を緩和するため「数週間に限って使う」のを原則にしています。
ただし日本では依存症を扱う治療機関以外、こうした考え方はまだ少数派でしょう。

常用量依存とは?

決められた用量を守って服用していたのに、その薬剤を減薬・断薬したときに「服用前にはなかった症状」が出てきたとしたら、それは薬の効果が切れたのではなく、「離脱症状」と考えられます。
つまり、身体依存が形成されている=「常用量依存」という状態です。

ベンゾジアゼピン系の薬剤の離脱症状は、服用期間や量など状況によりますが、ときにアルコールの離脱症状に匹敵するほど(またはそれ以上に)激しいことがあります。
報告されている症状は、不安、焦燥感、気分の落ち込み、頭痛、発汗、手足のしびれ、震え、知覚異常、けいれん発作、離人感、動悸、吐き気、下痢、便秘など多岐にわたり、症状の再燃と区別が難しいものもあります。

もちろん、これらの症状が必ず出るということではありません。実際に、10年以上飲み続けていた薬をやめても、さほど離脱が出なかったケースもあります。

日本ではまだ、常用量依存への取り組みは極めて不十分で、依存の知識がなく漫然と処方を続けてしまう医師や、中には患者の求めるままに言われた薬を処方して、結果的に乱用を手助けしてしまう医師もいます。

乱用・依存について

常用量依存以外の、いわゆる「処方薬の乱用・依存」は、あちこちの医者をハシゴして多量の服薬を続けたり、ためこんだ薬を一度にまとめ飲みするような状態です。

赤城高原ホスピタルは入院治療が主体の病院なので、私が実際に目にしているのは、こうした患者さんがほとんどです。中には医師の処方通り飲んでいた患者さんもいますが、さまざまな症状がからんで進行するうちに処方が増えて、一般的な処方では考えられないほどの量になっているケースです。

処方薬・市販薬依存の患者さんは増加を続けており、当院では覚せい剤依存よりも多くなりました。
乱用される処方薬のほとんどはベンゾジアゼピン系。
なぜかというと「効果が比較的早く感じられ、消えるのも早い」からです。同じベンゾジアゼピン系でも、作用時間が短いものほど乱用や依存の危険が大きくなります。
ですから薬を減らしたり服用中止する場合、半減期の短いものから長いものへと置き換えていく方法もとられます。

また、ベンゾジアゼピン系に代わる新しい睡眠薬として近年登場してきた酒石酸ゾルビデム(商品名マイスリー)などの乱用・依存ケースも増えてきています。

処方薬の「酩酊下」で起きる問題

アルコールであれば、酔っていることは傍目にもわかりますが、処方薬で「酔っている」状態は、周囲も、そして本人さえも自覚しにくいのです。

当院の調査では注目すべき結果が出ました。
過食症の患者さんの3分の1には窃盗癖がありますが、このうち3割ほどは抗不安薬などの処方薬乱用を合併しており、一部の患者は明らかに処方薬の「酩酊下」で万引きを行なっていたのです。

酩酊下での運転の危険、急性中毒による転倒や昏倒、慢性の乱用による対人関係や社会生活上の障害など、問題を数え上げればきりがありません。

これらは乱用レベルでの話ですが、常用量依存をどう考えるかは、その人の人生観にもよるでしょう。
離脱に苦しみながらすべての薬を切って、「草花の色はこんなに鮮やかだったのか」としみじみ話した人もいます。
一方、臨床用量で日常生活が維持できているのであればずっと飲み続けてもいい、という考え方もあります。

当院では、アルコールや覚せい剤などの依存から回復をめざす患者さんの場合、慢性の合併症がない限り、最終的には処方薬もすべて切ることを目指します。

自己判断での減薬・断薬は危険

これらの情報を目にすると、自分の飲んでいる薬が心配になって「やめなければ」と思うかもしれませんが、自己判断で減薬・断薬を行なうのは非常に危険です。
ベンゾジアゼピン系の薬以外に、たとえば双極性障害(いわゆる躁うつ病)で処方される気分安定薬など再発を防ぐために飲み続けることが必要な薬もあります。

現在飲んでいる薬について疑問や不安を感じたときは、まず主治医に相談してください。
インターネットの相談サイトなどで断薬の相談をしているのを見かけたりしますが、見知らぬ人に相談するよりまず主治医に話すことです。処方通りに飲んでいない場合も、その情報を伝えておかないと主治医は判断ができません。
今飲んでいる薬に、それぞれどんな作用や意味があるのかを主治医に確かめ、「減らしたい・やめたい」希望があるときはハッキリ話し、可能性と時期と方法を相談してください。

もしも主治医の説明に納得がいかないときは、他の医師に「セカンド・オピニオン」を求めることをお勧めします。

※季刊『Be!』105号の記事では、抗うつ薬も含めて、読者の疑問に答えています。
【読者の質問箱】あれは処方薬の副作用や離脱症状だった?

※季刊『Be!』129号では、うつ病と躁うつ病について、特集しています。
【特集】まったく別の病気だった! 「うつ病」と「躁うつ病」~ここまでわかった脳科学/アルコール依存症との接点

さて、「セカンド・オピニオン」ってどうしたらいい?
そのことを含めて、次のページ「処方薬について不安な人へ」で解説しています。

処方薬についてご心配な場合は、主治医をはじめ医師にご相談いただくか、薬物問題についての相談を受けている専門機関にご相談ください。
ASKには専門スタッフがいないため、ご相談には対応していません。
下記を参照してください。
薬物問題の相談先