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WHOからの「新型コロナウイルス感染拡大状況における 依存のリスクについての注意喚起文書」を掲載しました。

【ASKより】

3月20日、WHOのManagement of Substance Abuse部門から、COVID-19の世界的流行時における物質使用および嗜癖行動に関する注意喚起文書が出されました。

ここには、関連問題の予防に関する部分をすべて掲載します。治療等に関しては、社会環境や医療システムの違いも大きいため、省略します。

日本語訳は久里浜医療センター、赤字はASKによるものです。

 

COVID-19大流行中の物質使用および嗜癖行動に関する短報

2020320

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年後半に発見された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を原因とする疾患で、2020年3月に世界保健機関(WHO)によりパンデミックと特徴付けられた規模で世界中に蔓延している。各国は、感染の拡大を食い止めるために緊急かつ積極的な対応を取るように求められ、健康の保護、経済的および社会的混乱の最小化、人権の尊重の間のバランスを確保するための取り組みの一環として、国家および世界レベルで複数の対策が講じられている。

 

上述のバランスを念頭に置きつつ、物質使用や嗜癖行動による障害のある人を含む全ての人の心の健康とウェルビーイングを保つための努力を継続して行うとともに、物質使用に関連する害から公衆衛生を保護することが重要である。

 

本報告書はCOVID-19大流行中の物質使用および物質使用または嗜癖行動による障害に関連する健康問題について強調するため、WHOにより作成された。

 

1.COVID-19の般的な兆候として、呼吸器症状、発熱、咳、息切れ、呼吸困難などが挙げられる。また、重度の場合には、肺炎、重症急性呼吸器症候群、腎不全、さらには死に至る可能性がある。感染拡大を防止するための標準的な推奨事項には、こまめな手洗い、咳やくしゃみをする際に口や鼻をおさえる、ソーシャルディスタンス、咳やくしゃみ等の呼吸器疾患症状を示す人との接触の回避等が含まれるが、推奨事項は向精神薬を使用している、または物質使用障害のある人を含め、全ての人口集団に適用される。

 

2.COVID-19の大流行中、恐怖、不安、孤立、および全体的な不安定感により人々の苦痛が増大する可能性がある。ストレスや孤立に対処するための精神作用物質(薬物、アルコール)の使用や処方薬の誤用を回避することが重要であり、代替の対処方法として、心の健康とウェルビーイングを適切に保つことを推奨すべきである。

 

3.アルコール摂取と向精神薬の使用は、中毒、毒性、または物質使用による健康への長期的な影響により、健康に害を及ぼす可能性がある。また、物質使用や中毒は、COVID-19予防のための手指衛生、咳エチケット、その他の感染予防策の遵守を含む予防行動を妨げるだけでなく、治療計画の遵守に悪影響を与える可能性もある。子供、障害者、高齢者の世話や介護を行う立場にある家族や介護者は、精神作用物質の使用を避けるべきである。

 

4.飲酒量および飲酒パターンによっては、飲酒は、アルコール依存症等の精神行動障害、肝硬変、がん、心血管疾患等の主要な非感染性疾患、暴力や交通事故、衝突によるけが等、多くの健康問題を引き起こすリスクと関連している。有害な飲酒は、結核やHIV等の感染症の感染リスクを高めるだけでなく、感染経路を複雑にし、治療効果を低下させうる。

 

5.医学的監督なしでの向精神薬の使用は重大な健康上のリスクを伴い、薬物使用障害の発症につながる可能性がある。薬物使用障害は、特に未治療の場合、患者の有病と死亡リスクを高め、深刻な苦痛を引き起こし、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的またはその他の重要な機能領域において障害をもたらす可能性がある。また、薬物使用障害は、HIV感染、肝炎、心内膜炎等の複数の疾患に関連しており、感染に対する応答を低下させ、COVID-19への脆弱性とリスクを高める可能性がある。

 

6.例えば、アルコール摂取により感染から身を守ることができるといったような誤解を招く情報等、誤った情報が広まる可能性があることから、安全と予防に関し、信頼できる情報源からの情報に基づくことが重要である。飲酒がウイルスやその他の感染に対し予防効果があることや感染症の経過や転帰に対し好ましい効果を示すといったエビデンスは存在しない。むしろ、アルコール有害使用およびアルコール使用障害は、感染リスクの増加、疾患の望ましくない経過、治療効果の低下に関連することから、実際にはその逆である。さらに、アルコールの使用は、COVID-19の死亡リスクに大きく関与する心血管疾患や肺疾患等、多くの非感染性疾患の経過を悪化させることもある。

 

7.デジタルメディアや電話による精神作用物質、ゲームプラットフォーム、ギャンブルの機会の直接販売はCOVID-19大流行中に急激に増加すると予想されている。現在の困難な状況下において、各人は各世帯の基本的なニーズを判断し、特に家族内の未成年者や弱者をこのようなマーケティングから保護するための努力を強化すべきである。

 

8.COVID-19大流行等の困難な時期には、不健康な行動パターンに陥り易く、置かれた状況により生ずるストレスや不安感を解消するため、あるいは自主隔離、検疫またはロックダウン中に時間をつぶすための対処策として精神作用物質の使用またはゲームやギャンブルの利用に陥り易い。しかしながら、過度のゲームは複数の問題を引き起こし、睡眠の減少または昼夜逆転、栄養失調、攻撃性、深部静脈血栓症、頭痛、頚痛、言葉や身体的暴力、自尊心の低下、注意散漫と関連するゲーム障害のリスクを高める可能性がある。

 

9.多くの学校や保育施設はCOVID-19のまん延防止を図るために閉鎖されており、そのため、子供たちは親と一緒に家で過ごしている。オンライン学習を行ったり、親が在宅勤務中に子供を忙しくさせたり、自主隔離、検疫またはロックダウンに対応する中で、子供たちは画面を見ている時間が通常よりも長くなる場合もある。1歳児に対する推奨事項において、座って画面を見つめる時間(ビデオゲームの遊びを含む)は推奨されていないが、2〜4歳児に対しては、座って画面を見つめる時間は1日あたり1時間以内に制限すべきであるとされている。現状ではこのガイドラインに従うのは難しいかもしれないが、画面を見つめる時間が長くならないようにし、十分な休止時間と他の活動を行う時間を設けるようにすることが奨励されている。子供や青年に対しては、画面を見つめる時間の延長は一時的なものであることを説明することが重要である。そうでなければ、もし説明なしに中毒性のあるゲームへの制限が緩和されすぎた場合、通常の生活に戻る際に管理するのが難しくなる可能性がある。

 

10.多数の国や自治体において緊急事態宣言が発令されたことを受けて、陸上カジノやその他のギャンブル施設は閉鎖され、主要なスポーツイベントも中止された。多数の人が家にいなければならない状況と相まって、オンラインギャンブル(およびオンラインゲーム)の人気が高まり、その結果としてギャンブル障害を発症するリスクも高まる可能性がある。ギャンブル障害は、対人関係の困難、身体健康上の問題、認知の困難、自殺傾向、生活の質の低下、経済的および法的困難等、さまざまな問題と関連している。COVID-19が大流行する中で多数企業が取引停止を余儀なくされ、多くの仕事が危機にさらされていることから、現時点において財政上の懸念は極めて深刻化する可能性があるが、ギャンブルはお金を稼ぐ手段としてではなく、あくまで娯楽や気晴らしとして捉えられるべきである。この困難な時期に、ギャンブルの習慣について心配がある場合には誰かに相談すべきであり、オンラインによる支援やアドバイスも提供されている。

 

11.料理、読書、オンライン学習等で忙しくする等、楽しんでリラックスできることに従事する時間を増やすことで、精神作用物質の使用、過度のゲームまたはギャンブル依存とそれらに関連する害を回避することが可能である。元気であれば、自宅、バルコニー、または庭で運動するのもよい方法である。また、普段から十分に睡眠をとり、健康な食生活、十分な水分補給を心がけるべきである。