アルコール・薬物・その他の依存問題を予防し、回復を応援する社会を作るNPO法人「ASK(アスク)」の情報発信サイト

アルコール関連問題

1 本人の身体への影響

臓器障害

アルコール性肝炎になると肝細胞が炎症を起こしてこわれていく。それでも飲酒をやめないと、こわれた細胞のあとが線維におきかわり、肝硬変となってしまう。肝硬変を合併したアルコール依存症者では、断酒した場合の5年生存率は9割にのぼるが、飲み続けた場合は3割に過ぎない。
そのほかにも多量の飲酒を続けると、食道炎、食道静脈瘤(破裂すると命の危険)、出血性胃炎、マロリーワイス症候群、腸の吸収障害による慢性的な下痢、すい炎、末梢神経炎、大腿骨骨頭壊死、アルコール性の骨粗鬆症など、病名を挙げていくときりがない。

生活習慣病

高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病、痛風などは飲酒者にきわめて多い生活習慣病。
糖尿病はアルコール依存症者の15パーセントにみられる。肝臓の障害から起きるものもあり、断酒して肝臓の状態がよくなると血糖値も改善しやすい。ただし慢性すい炎からきたものは少々やっかいで、インシュリン注射を必要とする場合が多い。
高血圧も、依存症者が断酒するとたいてい一週間ほどで正常に戻る。アルコール性心筋症など心臓の不調も、酒をやめるとたいていはよくなる。

がん

意外と知られていないが、アルコールには発がん性がある。
WHOは、飲酒が原因になるがんとして、口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸の各がんと、女性の乳がんを挙げている。
口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓がんになるリスクは、1日3単位(およそ日本酒3合)以上の飲酒者では、月1~3回飲む人のなんと6.1倍。
また、飲むと赤くなる体質の人は、アルコールが代謝される途中でできる猛毒物質「アセトアルデヒド」の分解が遅いため、臓器に害を受けやすく、特に食道がんは、赤くならないタイプの人に比べて発症率が最大12倍にものぼる。
アルコールにはタバコなどに含まれる発がん物質を細胞に運びこむ作用もあるため、喫煙が重なると危険はさらに増す。

急性アルコール中毒

アルコールは脳をマヒさせる。ほろ酔い→酩酊→泥酔→昏睡と脳の機能マヒが進行していき、昏睡と死は紙一重だ。一般に泥酔以降の状態を急性アルコール中毒という。
通常の飲み方では昏睡や死に至ることは少ないが、急速に流し込むような「イッキ飲み」をすると、酔いを感じるまでのタイムラグがあるため致死量のアルコールを飲んでしまうことがある。そのため命を失う学生が相次いでいる。
「イッキ飲み・アルハラ」についてくわしくは

外傷など

酩酊して転倒した際の頭部外傷はアルコールの影響で「脳浮腫」を招きやすく、死のリスクを高める。
また高所からの転落、交通事故、酔ってのケンカなど、外傷の危険はさまざまだ。
寝タバコによる火災も酩酊状態で起きることが多いといわれる。

2 本人のこころへの影響

アルコール依存症

2013年の厚労省研究班による調査では、WHOの国際疾病分類「ICD-10」によるアルコール依存症者は109万人と推計され、予備軍を含めると(=「AUDIT」15点以上)294万人にのぼるとされる。
一方、実際に治療を受けているのはその5%にも満たない。
「アルコール依存症」についてくわしくは

うつ病・自殺

飲酒によってストレスを解消したはずが……実際はアルコールを習慣的に用いることは「うつ症状」を招く。
アルコール依存症者の3割はうつ病を合併しているとの研究や、40~50代の男性うつ病患者の3割以上に飲酒問題があったとの調査も。
自殺とアルコールの関係を示すデータも国内外で出されている。
「うつ・自殺とアルコール」についてくわしくは

睡眠障害

飲酒すると、寝つきがよくなるように思える。アルコールが脳をマヒさせるからだ。
しかし一週間ほど寝酒を続けると睡眠パターンがくずれ、浅い眠り・中途覚醒・早朝覚醒などの睡眠障害に陥りやすい。
寝酒が習慣化することは、アルコール依存症への直線コースでもある。
寝酒のリスクについてくわしくは

認知症

施設に入所している認知症の高齢者の29%は大量飲酒が原因という調査がある。
大量飲酒の経験がある高齢男性は、認知症になるリスクが4.6倍高まるという研究も。
アルコール依存症や大量飲酒者には脳の萎縮がみられ、飲酒量が多いほど萎縮の程度は重篤になるが、断酒によって改善することも知られている。

3 家族への影響

配偶者への暴力(DV)

飲酒問題にDVがからむケースはきわめて多い。
飲むのを止めようとする妻を夫が暴力で支配しようとするケース、ためこんだストレスを暴力で発散するパターンが飲酒でエスカレートするケース、嫉妬妄想が背景にあるケースなどさまざまだ。DV殺人も起きている。
深刻なDVの32%は飲酒時に起きているという研究や、刑事処分を受けたDV事例の67.2%が犯行時に飲酒していたという報告も。
また妻の飲酒問題に悩む夫が、暴力をふるうケースも少なくない。

子どもの虐待

虐待の背景に親の飲酒問題があることは少なくない。
酔って何かと面倒を起こす父親と疲弊した母親……という家庭の中では、子どもは安心・安全を得られない。また母親に飲酒問題がある場合は、ネグレクトに直結しやすい。
飲酒をめぐってのDVを目撃することは子どもに深刻なトラウマを与える。
日々何が起きるか予測がつかないこと、子どもが年齢以上の役割を求められること、暴言や暴力を浴びせられること、十分な関心を向けられないことなど、依存症家庭ではさまざまな虐待が起きやすい。

家庭崩壊

飲酒をめぐる家庭内のいさかい、DV、借金、失職、異性問題など、数々のトラブルから離婚につながることも多い。

胎児・乳児への影響

母親が摂取したアルコールは、胎児や乳児にも影響を及ぼす。海外では「胎児性アルコール症候群(FAS)」や「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)」についてさまざまな調査が行われているが、日本では実態把握ができていない。
若い女性の飲酒がすっかり一般化した現在、啓発が急務だ。
「アルコールによる胎児への障害」についてくわしくは

介護問題

高齢者のアルコール依存症が増加している。「仕事と酒」の人生を送ってきた人が定年後に日中から飲むようになったり、配偶者の死をきっかけに飲酒問題が進行するなどだ。
失禁、認知や身体機能の低下、怒りっぽくなるなど、周囲の負担は大きい。
そのためアルコールは高齢者虐待の背景ともなっている。家族も介護スタッフも振り回されて疲れ果ててしまうのだ。
離れた場所に暮らす子どもが、親の飲酒問題で困り果てるケースも多い。
居宅介護に従事する介護支援専門員、介護員等のうち8割が利用者のアルコール問題に遭遇しているという調査データも。

世代連鎖

父親に飲酒問題がある家庭に育った男性は、成人後に飲酒問題を抱えるリスクが高いことが数々の調査で指摘されている。これは遺伝的な背景だけでなく、酒でストレスに対処しようとするパターンを学習することや、健康な感情表現・コミュニケーションのモデルが得られないことなど、環境による影響も大きいと言われる。
「世代連鎖」についてくわしくは

4 地域社会への影響

飲酒運転

厳罰化にもかかわらず頻発する飲酒運転の背景に、アルコール依存症や多量飲酒が存在することは間違いない。飲酒運転検挙経験者の男性47.2%、女性38.9%にアルコール依存症の疑いがあるというデータも。
「飲酒運転」についてくわしくは

生産性の低下

依存症者には、もともと仕事熱心だった人が多い。酒でコミュニケーションをとろうとする企業文化に過剰に適応したり、仕事上のプレッシャーやストレスを飲酒でまぎらすうち、アルコールへの依存を進行させていく。するとパフォーマンスは低下し、ミスが増えたり、安全にかかわる重大事故を起こす場合もある。

失業問題

飲酒による遅刻・欠勤、仕事の能力の低下や重大な失敗、周囲との人間関係トラブルなどにより失職に至るケースが多い。転職ができたとしても、飲酒問題への介入が行なわれない限り、次の職場で同じことを繰り返す可能性は高い。

貧困問題

失業、飲酒による生活の乱れ、借金などにより困窮に陥ると、そのストレスからさらに飲酒が進行するという悪循環に陥りやすい。
アルコールは貧困が再生産される背景のひとつでもある。

さまざまな犯罪

飲酒運転やDV以外にも、酔った上でのケンカ、駅や交通機関内での暴力行為、無銭飲食や窃盗などの軽犯罪など、アルコールはさまざまな犯罪の背景となる。
犯罪白書によると、50代男性の窃盗の23%、万引きの再犯の26%に、過度の飲酒があった。アルコール問題への介入が行われなければ、再犯が繰り返されることになる。各地の刑務所では近年、受刑者を対象にしたアルコール教育プログラムが開始されている。

未成年飲酒

中高生の飲酒率は2000年以降、減少傾向にあるが、男子に比べ女子の減少幅は小さく、飲酒経験率は中学・高校とも女子が男子を上回る逆転現象が起きている。
さらに気になるのが、子どもの「健康格差」だ。
「タバコを吸わない」中高生では飲酒率がぐっと下がっているのに対し、「喫煙する」中高生では低下がみられない。一部の子どもたちに問題が集積していく流れが起きている。

5 社会的損失

アルコールの飲み過ぎによる社会的損失は年間4兆1483億円に達する、という厚生労働省研究班の推計がある。2008年のデータを基にした推計で、内訳は、飲み過ぎによる病気やけがの治療に1兆226億円。病気や死亡による労働損失と生産性の低下などの雇用損失を合わせて3兆947億円。自動車事故・犯罪・社会保障などに約283億円である。


アルコール関連問題の詳細と、必要な対策に関しては、ASKが事務局を務めサイトを運営している「アル法ネット」のホームページもご参照ください。

 

アルコールに寛容な国「日本」

世界的に見ても日本は、飲酒について寛容な国です。
酔って失態をおかしても「酒の上でのこと」と許される空気があります。

そこには、白人や黒人にはない黄色人種特有の遺伝子変異も関係しているかもしれません。日本人の約半分は、アルコールの分解過程でできる猛毒物質「アセトアルデヒド」を即座に分解する酵素がうまく働かないのです。
飲むと酔いつぶれてしまう人が一定数いたことで、酔態を問題にしない空気ができあがったと推測できます。

歴史的には、収穫期のお祝いなど特別なハレの機会に、ともに酔っぱらうことで仲間意識を高めてきた背景があります。
これは男性が多い職場での「飲酒風土」に、今でも受け継がれています。

こうした下地のもとに、戦後になって急速にアルコール飲料は「いつでも、どこでも」飲めるものになっていきました。
ハレの日どころではなく、コンビニでは24時間、安価なアルコール飲料が手に入ります。
テレビでは大量のアルコールCMが流され、インターネット上でもさまざまな広告が行なわれています。
従来からの寛容さに、入手のしやすさが加わり、飲酒に対する心理的・物理的ハードルが非常に低い、現在の日本の環境ができあがったのです。

2013年に成立した「アルコール健康障害対策基本法」によって、国としてのアルコール対策がようやく動き出しました。
アルコール関連企業も、CMの自主基準を厳しくするなど、関連問題の予防への意識を強めています。