HOME
 
アルコール健康障害対策基本法
 
アルコール依存症
 
うつ・自殺とアルコール
 
薬物乱用
 
イッキ・アルハラ
 
飲酒運転
 
AC
 
妊娠とアルコール
 
予防プログラム
 
自分らしく生きるための道具箱
 
アスク・キッズ
 
アルコール・ルパンを追え!
 
ASKの本
 
目次
 
職業ドライバーへの
一歩踏み込んだ「飲酒運転防止」対策
2003年運行管理者一般講習用テキスト『事故分析なければ対策なし』から、ASKが執筆した記事の一部を、自動車事故対策センターの許可を得て転載しました。
●飲酒運転の背景にある「アルコール依存症」という病気
●「寝酒」が危ない!!
●職場で早期発見・介入を
 <飲酒問題の兆候>職場で早期発見するためのチェックリスト
 <職場でできるアルコール対策のポイント>
●依存症から回復したバス運転手からのメッセージ

飲酒運転の背景にある「アルコール依存症」という病気
 長距離バスの運転者が酒気帯びで蛇行運転し、乗客の通報で逮捕されるという事件がありました。この運転者は朝酒を飲んで出勤し、途中のコンビニで酒を買い、乗客を乗せて出発する前や、サービスエリアでも飲酒していました。
 彼は数年前からたびたび飲酒運転をしていたそうですが、職場では勤務態度がまじめなベテランとして通っていたそうです。なぜ「まじめなベテラン運転者」が飲酒運転を繰り返していたのでしょうか。その背景を理解することなしには、有効な対策はのぞめません。
 常習的な飲酒運転の背景にあるのはほとんどの場合、「アルコール依存症」という病気です。
 ビールや日本酒、焼酎、ウィスキーなどのアルコール飲料は一般に「嗜好品」とされていますが、同時に依存性のある薬物というもう一つの顔をもちます。日々飲酒している人は、長い年月の間に、知らず知らずのうちにアルコールに依存していく(つまり酒なしではいられなくなる)可能性があるのです。日本には少なくとも240万人のアルコール依存症者がいるといわれています。

 アルコール依存症とは、どんな病気なのでしょう?

1.飲酒をコントロールできない
今日は飲まずにいようと思っても、つい飲んでしまう。少しでやめておこうと思うのに、酩酊するまで飲む。飲んではいけない場所・時間だとわかっていても、飲酒欲求を抑えられない。問題が起きているのに、飲み続けている。

2.アルコールが体から抜けると、不快な症状がでる
やたらに汗をかいたり、風邪をひいたように熱っぽくなる。吐き気。イライラして集中できない。眠れない。ひどくなると、手や全身のふるえ、幻覚なども起きてくる。これらの症状は、飲酒するとおさまる。

 先ほどの運転者の場合も、体から酒が抜けてくるとあわててアルコールを補充していたのだと思います。これはアルコール依存症の末期に入った状態です。
 そうなってまで仕事を続けようというのですから、責任感が強くまじめな人なのでしょう。けれど、アルコールなしではハンドルが握れない、一方でアルコールが入っていれば正常な運転はできない……あまりに危険な綱渡りです。アルコール依存症が進行すると、飲むことにとらわれるあまり、自分の行動がどれだけの重大な結果を引き起こすかという判断がきかなくなってしまうのです。こんな状態になる前に、早く問題を発見することが大切です。
 アルコール依存症は回復する病気です。ただし、せっかく回復しても何かの機会に少しでも飲酒すると、またアルコール依存症に逆戻りしますので、二度と飲酒することはできません。専門の治療を受けて断酒することで、社会復帰は可能です。そして、早期であればあるほど肝臓や脳などの障害も少なくてすみ、回復が容易で職場復帰の可能性も高くなります。早期発見・早期治療ができれば、本人にとっても職場にとっても、もちろん家族にとっても、失うものが少なくてすむのです。

「寝酒」が危ない!!
 不眠に関する国際調査によると、日本では、眠るための方法として「寝酒」をあげる人が3割もいます。職業運転者がアルコールに依存する大きなきっかけも、この「寝酒」。不規則な勤務のために睡眠パターンがくずれやすく、早く眠りに就こうとして寝酒が習慣になることが多いのです。けれどそこには大きな落し穴があります。
 アルコールには脳の働きをマヒさせる「麻酔作用」があるため、飲めば確かに眠くなるし、すぐ眠りも深くなります。けれど1週間ほど寝酒を続けると、睡眠に変化が起きます。深い眠りが減って、浅い眠りが増えていくのです。十分な眠りがとれないうちに目覚めることも増えます。つまり睡眠の量も質も落ちていくのです。
 さらに寝酒を続けていると、かつてと同じ量では寝つけなくなります。脳がアルコールに慣れてしまい、たくさん飲まないと眠れなくなるのです。これが依存症への入り口になります。そして睡眠への悪影響も大きくなります。レム睡眠が分断され、眠りのリズムが乱れてしまうのです。疲れがとれないだけでなく仕事への能力にも支障をきたす可能性があります。
 レム睡眠は脳の学習や成長に関わっているといわれ、環境への対応に役立ったり、性機能の維持にも関係していると考えられています。そのための自然な睡眠リズムを、アルコールは破壊します。健康に仕事を続けるためには、就寝前に軽い運動をする、ぬるめのお風呂に入る、静かな音楽をかけるなど、お酒なしで眠る方法を工夫することです。
職場で早期発見・介入を
 アルコールに依存した状態の人が運転を続けるのは、自分だけでなく他人の命を大きな危険にさらす行動です。その危険に対する正常な判断ができなくなってしまうのは、性格の問題や人格的欠陥ではなく「病気のため」ですが、だからといって社会的な責任をまぬがれるわけではありません。とくに職業運転者の場合、アルコール依存症という病気を放置せず治療を受けることは、仕事を続けるための絶対条件です。職場は、本人にこの病気のことを知らせ、治療をすすめる社会的責任があります。
というのも、本人はなかなか飲酒の問題を認めようとしないのがふつうだからです。「否認」は、アルコール依存症の特徴のひとつ。好きで飲んでいるのではなく、飲まずにいられない体になっているため、自分にも周囲にも苦しい嘘をつきながら飲酒を続け、そのつらさや自責感を忘れるために、さらに酒を必要とするのです。この状況を改善するためには、周囲からの「介入」が欠かせません。とくに職場からの介入は効果が大きいことがわかっています。
以下に、職場でのチェックリストをあげておきます。依存症が進行するにつれて、このような兆候が目についていきます。

<飲酒問題の兆候>職場で早期発見するためのチェックリスト

【酒臭】
 □ 二日酔いで出勤してくる
 □ 点呼時や乗務中に酒臭がする
 □ (酒臭を隠すため)点呼のときにいつも後ろにいる
 □ 点呼直前にタバコを吸ったり、ガムをかんだりして酒臭を隠す
 □ 点呼時にアルコールが検知される

【欠勤】
 □その日になって急に休み、シフトに穴を開ける
 □ 休み明けにしばしば休む
 □ 風邪や腹痛などで休む回数が他の人より多い
 □ 家族の病気や法事など、言い訳めいた欠勤がよくある
 □ 早々と有休を使いきってしまう
 □ 長期欠勤をする

【体調不全】
 □ 水を飲みに行ったり、トイレに行く回数が多い
 □ 休憩中に、具合悪そうに横になっている
 □ 顔色が悪く、むくみがある
 □ 下痢気味で、駐車するやいなやトイレに駆け込むことがある
 □ 健康診断で、肝機能の異常や高血圧などを指摘されている
 □ 出勤するが、調子が悪いと言って帰宅する

【ミスや事故】
 □ ちょっとした物損事故(ガードレールや電柱にこするなど)を起こす
 □ 坂道でクラッチとアクセルの操作がスムースにできない
 □ 人身事故を起こす

【勤務態度など】
 □ なんとなくイライラしている
 □ 仕事への意欲にムラがある
 □ 注意をすると、言い訳したり、けんか腰になったりする
 □ しつこく愚痴めいた話をし、同調を求める
 □ 「酒飲み」「酒に強い」「酒好き」「酒癖が悪い」などの評判が定着している 
 □ 給料を前借したり、同僚から金を借りたりする
 □ 乗客や顧客から苦情がでる
 □ 職場で孤立する

 次に、職場でできる対策のポイントをあげておきます。

<職場でできるアルコール対策のポイント>

1.徹底した飲酒運転防止体制
 点呼の強化とアルコール検知器の導入。勤務前8時間の飲酒禁止。営業所内、行先地・宿泊地での飲酒規制など、徹底した飲酒運転防止体制をつくりましょう。

2.予防知識を広める
 日頃から運転者や家族に対して、アルコール問題の情報を流しましょう。健診などの機会をとらえて、アルコール体質判定(エタノールパッチテスト)をやって予防意識を高める方法もあります。アルコールによらない睡眠の方法やストレス管理法についてのセミナーを開くのも一つの方法です。また、家族が気軽に健康管理職などに相談できる雰囲気づくりが重要になります。
※ 腕に消毒用エタノールを塗布したパッチを貼って、皮膚が赤くなるかどうかでアルコールに対する体質をチェックする方法。アルコールは代謝の過程で悪酔いの元凶・アセトアルデヒド(毒物)になる。この物質をスムースに分解できるかどうかをパッチテストで調べ、酒に弱い体質(下戸)か、強い体質(飲みすぎ注意)かを判定。体質ごとに注意事項を知らせて、予防啓発の一助とする。

3.飲酒問題を見逃さない
 運行管理者・人事担当者・健康管理職らが連携し、飲酒問題を見逃さないようにします。点呼時にアルコールが検知された、健診で肝機能などの異常が発見された、欠勤が○○日ある……など、事実を具体的にリストアップします。

4.介入に向けて関係者の調整をする
 関係者(運行管理者・人事担当者・雇用者・保健師や嘱託医などの健康管理職、家族)が連携し、情報を共有した上で意思統一をはかります。この際、<1>アルコール依存症の専門治療を受けるのが仕事を続ける絶対条件であり、それを拒否すれば職を失う可能性がある、<2>治療を受けて回復すれば復職にあたり不利な扱いはしない、ことを確認しておきます。
関係者の間に誤解や偏見があると、意思統一ができません。3項<アルコール依存症についての「よくある誤解」と「間違った対応」>を参考にしてください。

5.本人に介入する
 関係者を集めた席に本人を呼び、介入を行ないます。本人は問題を隠そうとして、さまざまな言い訳をするものです。責める雰囲気があるとこうした否認や抵抗を強めることになるので、冷静に事実を伝え、「治療を受けて回復すれば復職できるが、治療を拒否すれば職を失いかねない」ことを穏やかに話します。治療機関の情報を前もって集めておくと、その後の流れがスムースにいきます。

依存症から回復したバス運転手からのメッセージ

T・A

 建設会社のトラック運転手をしていた頃に、酒を覚えました。29歳で転職しバス運転手になりましたが、シフト勤務になじむのが大変でした。早番のときは朝4時半に起きなければなりません。「もう9時だ、寝なければ」と思っても、なかなか寝つけず、酒をひっかけて眠りました。しかし夜中に目覚めてしまうことがよくあり、しかたないのでもう一杯飲んで寝るというふうになって、酒量が増えていきました。おまけに早番だと昼には勤務が終わるので、時間をもてあました運転手同士、昼間から酒を飲むことがよくありました。すっかり出来上がって帰宅し、夜になればまた飲んで寝るのです。
 かなり飲んだ翌朝は、酒臭いのが自分でもわかるので、周囲に気取られないように気を遣いました。「おはようございます」とお客さんに声をかけられると、そっぽを向いて返事をする。ガムをかんでごまかす。「運転手さん、酒臭いね」と言われたこともありましたが、「夕べやりすぎて」と頭をかいてごまかしました。こういう日は、運転にはとりわけ気をつけたのですが、今思えば、坂道発進で下がってしまうことがよくありました。アルコールで神経が鈍っていたせいでしょう。ガードレールや電柱で車体をこすったこともよくありました。人身事故を起こさなかったのは、本当に運がよかったと思います。
 40歳を過ぎた頃には、酒の問題を隠すためにかなりのエネルギーを費やすようになっていました。自分でもまずいと思い節酒するのですが、続かないのです。誰が見ても酔った状態で出勤して帰されたこともありました。さすがに、所長から酒を控えるよう注意され、始末書も何度か書きました。45歳以降は、毎年のように肝炎で内科への入院を繰り返していました。
 49歳で初めて無断欠勤をしました。酔いつぶれて眠り、目が覚めてはまた飲むという連続飲酒状態になってしまったのです。自分でもどうにもならず、いつもの内科に入院しようとしたら、「もうここでは治療できない。アルコール依存症の専門病院に行きなさい」と言われました。家族が所長に呼ばれ、「酒をやめるか、会社をやめるかのどちらかにしてほしい」と言い渡されました。保健所で専門病院を紹介してもらって、3ヵ月の入院となりました。
 入院当初は「俺がアル中なものか!」と、会社や家族に対する怒りがおさまりませんでした。しかし、自助グループ(※)に出ているうちに、自分と同じような体験を次々に耳にし、やはり同じ病気なんだと認めるようになりました。
 職場復帰するときには、自分がアルコール依存症だということを同僚たちにも話しました。3ヵ月は毎晩自助グループに行くと決めていた私のために、同僚が夜のシフトを代わってくれたり、会合では「こいつは酒やめてるから、ウーロン茶を」と言ってくれたり、協力がありがたかったです。その後は通常のシフトに戻りましたが、今も週2回の自助グループ通いを欠かしません。
 夜、自助グループから帰ると、バタンキューで眠れるのです。運転手という職業は、神経は使いますが体は使いません。自助グループに行くために足を使い、また心のつかえを話してすっきりできるのがよかったようです。体が適度に疲れ、心が落ち着けば、酒がなくても眠れるのだとわかりました。何よりも、ビクビクする必要がなくなり、どれだけ楽になったか知れません。
 断酒して10年が過ぎました。休みや早番で時間に余裕がある日には草花いじりをする、健康的で平穏な暮らしです。あのとき、私に最後のチャンスをくれた所長に、心から感謝しています。
 あちこちの営業所で、かつての自分と同じような同僚を見かけます。必死で酒臭を隠し、なんとか酒を減らそうと努力しては失敗しているのです。かつての自分を思い起こすと、会社は「酒か仕事かどちらかを選べ」と早く引導を渡すべきだと強く思います。きっかけさえあれば、治療を受けて断酒できる人が数多くいるはずです。それが本人や家族のためでもあるし、お客様や社会の安全を守ることでもある。そして会社の利益にもつながると思います。
 自分の命を大切にできない人間に、人の命は大切にできません。

※ 自助グループ アルコール依存症者の集まりで、断酒会とAAがある。共通の体験をもつ人たちの中で、心のうちを正直に語り、人の話に耳を傾けることが、回復には不可欠。

 断酒会 03−3953−0921(全国に600以上あり、約5万人の会員がいる)
 AA(アルコホーリクス・アノニマス)03−3590−5377(アメリカで始まった自助グループで、全世界に広がっている。入会手続きがなく匿名で参加できる)