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目次
 
オーストラリア・ニューサウスウェルズ州の
飲酒運転再犯防止対策
ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
代表 今成知美
 
2007年4月初旬、オーストラリア、ニューサウスウェルズ(NSW)州のシドニーに行き、違反者に対する教育・治療的なアプローチを調べた。
昨年視察したアメリカ・カリフォルニア州では、DUIプログラム一本で初犯から再犯まですべての違反者に対応していた。しかし、オーストラリアの特徴は、いくつかのアプローチを組み合わせていること。公的なプログラムが2つ、コミュニティベースのものが1つあった。
これは、アメリカの基準がBAC0.08(呼気0.4)と高いのに対して、オーストラリアは低めであることが背景にあるのかもしれない。
ちなみにNSW州は、以下の3段階の基準が用いられていた。
 
・一般ドライバー   BAC0.05(呼気0.25)←かつての日本と同じ
・大型(トラックやバス)(呼気0.1))←今の日本より低い
・初心者 ゼロ
 
NSW Alcohol Interlock Program & Drink-less Program
<インターロック&ドリンクレス(節酒)・プログラム>
 
●対象:血中濃度0.08(呼気0.4)以上の違反者+再犯者。オプション。
●開催主体と特徴:RTA(道路交通局)による、オプション・プログラム。これを選んだ違反者は、免停期間が短縮され、代わりにインターロック免許証が交付される。申請の条件として、認定医師によるAUDIT(WHOのアルコールスクリーニングテスト)を使ったアセスメントとブリーフインタベンションを受ける。自費(節酒プログラムAUD50〜60/インターロックの装着経費AUD160+維持経費月額AUD130)。2003年開始。

ドリンクレス(節酒)・プログラムについてのシドニー大学Kate Conigrave助教授の話

●やり方:まず、AUDIT(WHOが作成したアルコール問題のスクリーニングテスト)をやってもらう。医師が結果をチェック。点数にしたがって、判定結果を伝える。AUDITが一番効果を発揮するのは、問題飲酒群に対して。どこにいるかを示し、健康へのリスクが低い飲酒の目安を示す。ポケットサイズの節酒の手引きを渡す。依存症の場合は専門機関を紹介する。
●経緯1:RTAは医師を認定する研修に資金を提供。シドニー大学が昼食付の1日集中講座を開催し、これまでに家庭医300人程度を認定した(ランチ付がよかった)。アルコール問題への介入は難しいと二の足を踏む医者が多いが、Drink-less キットは使い方が簡単。しかも節酒効果はWHOによって立証済み。飲酒運転だけでなく、さまざまなアルコール関連疾患に使えると医師の反応は上々。ただし、飲酒運転再犯率低下についてはまだ評価されていない。
●経緯2:1991〜94年、血中濃度が高い違反者(BAC 0.15以上)と呼気検査を拒否した人に対する「ドライバー・アセスメント・プログラム」がNSW州には存在していた(道路交通局と健康局の共同事業)。しかし医療機関が続々降りて挫折してしまった経緯があり、代わるものとして編み出されたのが上記のプログラムだった。多くの家庭医ができるようになる必要があった。
かつてのアセスメントプログラムは免許再交付の必須要件で、免停期間終了前に5つのアルコール専門機関のどこかで医学的なチェックを受け、その結果がRTAに送られて合否が判定されるというもの。MAST・CAGEを組み込んだ問診に、血液検査も加えた医学的なアセスメントだった。自費で2万円近くかかるため受診率が低く、受診者の否認にてこずり、手間とコストがかかったのが敗因。(飲酒運転による検挙が節酒につながり、γGTPが減少することが証明されるなど、成果もあった)
RTAはその後、免停期間を短縮してインターロック免許証を与える方向へ。その申請要件として、簡易なAUDITを使ったアセスメントとブリーフインタベンションを必須とし、専門医ではなく家庭医が実施する形に切り替えた。アセスメント・プログラム3年間の経緯が挫折の理由も含め以下の論文にまとめられている。たいへん興味深い。
 
NSW Sober Driver Program
<ソーバー・ドライバー・プログラム>
 
●対象:8歳以上の飲酒運転の再犯者。裁判所による強制で、保護観察とセット
●開催主体と特徴:矯正局。国内外の実践を参考にし、RTA(道路交通局)、MAA(自動車事故局)、AGD(法務局)、DCS(矯正課)保護観察・執行猶予・仮釈放サービス、NSW警察、TOPs(各地にある交通違反者プログラム)の協力のもとで開発された。16%を占める再犯者の累犯を防ぐのが目的。2002年に開始。
●やり方:グループによる教育+認知行動療法+個人面接20時間(2時間×9週間+前後に面接2時間)。仕事帰りに参加できるよう、夜開催している。
●教育の内容:飲酒運転の結末/アルコールの運転への影響/飲酒の機会を管理する/飲酒運転以外の選択肢/再発予防/ストレスマネージメントなど。
●効果:修了2年後で再犯率を43%下げたという報告。Mills KL, Conigrave KM, Johansson K, Hodge W. An outcome evaluation of the New South Wales Sober Driver Program: a remedial program for recidivist drink drivers. Drug and Alcohol Review in press (accepted May 25 07).
 
Traffic Offenders Program (TOPs)
<交通違反者プログラム>
 
●対象:交通違反の初犯者全般。強制ではないが、裁判所が推奨するため受講率は高い。
●開催主体:コミュニティー・ベース。地域のNPOが寄付や協賛金で実施しており、行政が協力。(すべての地域に存在しているわけではない。無料がベースだが、参加費を徴収するところも)
Black TownのTOPs会長のDavid Bamford氏の話

●教育の内容:警察/救急/交通安全/車の維持管理/保険と法的システム/脊髄損傷の予防/アルコールとドラッグ(講師はアルコール・薬物依存の治療を専門にする心理士)。
2時間×8週間。7コマの講義+宿題(毎回、質問に沿ってレポートを書く)。最終日は、受講の結果、何を学んだかを書いて来なければならない。これが裁判で役に立つ。

●状況1:シドニー郊外(車で40分)のブラックタウンでは、1992年開始。警察・救急など行政の協力と地 域のクラブ(飲食・娯楽の場)の協賛、コーディネーターの頑張りにより、無料で提供し続けてきた。交通違反者全般を対象にしているが、受講者の半分以上が飲酒運転である。
●状況2:今では48の裁判所が効果を認め、裁判の初回に、「ぜひ受講しなさい。判決はその後にしましょう」と判事が勧めてくれる。強制ではないが、裁判では出席状況や宿題提出を確認のうえ、学んだ内容を質問するため、受講率は高くドロップアウトも少ない。92年の3月から07年の2月までに9920人が受講した。隣のクイーンズランド州からトラック運転手が受けに来たこともある。受講者は学んだことを家族に話す。知識が口コミで広がる効果もある。法廷で、「受講のチャンスをくれてありがとう」と言った人もいる。「すべてのドライバーが受けるべきだ」との感想もよく聞く。高校生が受講し、行動があまりにも変わったため、母親と教師が驚き、高校で出張講座をやってほしいと言われたことも。受講中に酒気を帯びてはならない決まり。ランダムで呼気検査器を吹かせることもある。英語が話せない海外からの移民や先住民もけっこういて、(英語のわかる)家族や友人を連れてくるから、会場は満員。1回の講座に160人程度が出席。
●効果:1999年にRTA(道路交通局)によって、交通違反の再犯率を25%下げたと評価されている。

市の交通安全担当官David Tynan氏の話:
●このプログラムは歴史があり内容も充実、若者向けの予防プログラムにも一部を活用している。「運転免許はとても大切。失わないようにしよう」というメッセージを伝えることが重要。TAFE(専門学校)の学生は、就職に免許が必要なため、教育の対象として効果が上がる。
●そのほかに効果が上がる対策は、警官がパブ・クラブ・バーを巡回すること。酩酊者に酒類を提供するのは法律違反。最近は喫煙も禁じられているので、依存症などヘビードリンカーを馴染み客とするような昔風のバーは成り立たなくなった。酔客がしつこく酒を要求すると、店は身を守るために警察に通報する。バーも軽く飲む、安全でおしゃれな場に変わりつつある。指名ドライバーやシャトルバスのサービスもある。
※NSW州では、一般への予防啓発にも力を入れている。