2006年10月26日

総理大臣 安倍 晋三 様
警察庁長官 漆間 巌 様
法務大臣 長勢 甚遠 様
厚生労働大臣 柳澤 伯夫 様

日本アルコール問題連絡協議会
  会 長   佐藤 喜宣

〒103-0007 中央区日本橋浜町3-16-7-7F
特定非営利活動法人アスク(アルコール薬物問題全国市民協会)内
Tel 03-3249-2551 Fax 03-3249-2553

加盟団体:特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)/イッキ飲み防止連絡協議会/アディクション問題を考える会(AKK)/(社)全日本断酒連盟/日本アルコール・薬物医学会/日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会/日本禁酒同盟/(財)日本キリスト教婦人矯風会/日本禁酒禁煙協会

 

 

 

 日本アルコール関連問題学会
  理事長   
丸山 勝也
 〒239-0841 神奈川県横須賀市野比5-3-1
独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター内
Tel 0468-48-1550 Fax 0468-49-7743


飲酒運転の背景にある
「飲酒問題」への介入に関する要望書

<要望事項>

 下記の施策を早急に実行されますよう、強く要望します。

1) 日本での飲酒運転検挙者・受刑者の飲酒問題についての調査
2) 米国等の飲酒運転検挙者に対する「飲酒問題アセスメント」「予防教育」「強制治療」の視察・調査
3) 上記施策の日本への導入を検討する専門委員会の設置

<要望の背景と理由>

 8月25日に福岡市で起きた幼児3人の死亡事故以来、飲酒運転防止に関する連日のマスコミ報道と大規模な取締りが行なわれていますが、それでも飲酒運転をする人は後を絶ちません。これは、何を物語っているのでしょうか。
 それは、飲酒運転の背後にアルコール依存症とその予備軍を中核とする飲酒問題があるからだと、私たちは考えます。この視点を抜きにして罰則のみを厳しくしても、飲酒運転・事故を減らす効果には限界があります。
 アメリカの飲酒運転者の3分の1が再犯(参考文献(1):Fell, 1995)であるという報告、また再犯者の53.8%がアルコール依存症という調査((2):Laphamら, 2006)から推察して、日本における飲酒運転の検挙者の中にも、アルコール依存症者およびその予備軍が含まれている可能性は高いと思われます。したがって再犯を防止するためには、初犯の段階ですべての検挙者に飲酒問題のアセスメント(スクリーニングテスト)を行ない、予防教育・依存症治療につなげる実効ある介入施策が必要です。
 2002年に高速バスの運転手が乗務中に飲酒して蛇行運転するという事件があり、バス業界をあげての防止対策の端緒となりました。この運転手は実刑6ヵ月・執行猶予4年の判決を受け、バス会社を懲戒解雇となりましたが、報道によると、その後2004年に自家用車で酒気帯び運転をし、再度検挙されて6ヵ月の実刑判決を受けています。このとき元運転手は、運送会社の面接を受けに行く途上だったとのことです。2002年の状況から判断して、この元運転手はアルコール依存症がかなり進行した状態であったと思われ、処罰と制裁だけでは飲酒行動を変える結果に至らなかったことがわかります。
 アルコール依存症者を対象に飲酒運転に対する意識を調査した2つの研究((3):小畑文也ら, 2003;(4):長徹二ら, 2006)がありますが、そのどちらからも飲酒運転抑止効果は厳罰化では効果が低く、断酒が有効であることが示されています。
 また、交通事故総合分析センターも、厳罰化の影響で飲酒運転事故が大きく減っているにもかかわらず、3回以上事故を起こしている者が起こした事故件数は3倍になっていることを指摘。厳罰化が悪質な常習者には効果を及ぼしておらず、「矯正・教育・免許システム・保険制度等さまざまな角度から検討すべきである」と提言しています((5):2005)。
 アルコール依存症は飲酒に対するコントロールを喪失する病気であり、断酒を基本とする専門治療を行なわないかぎり、病気は進行し問題行動は繰り返され重篤化します。厚生労働省研究班の調査((6):2004)によると、日本にはICD-10(WHOが策定した国際疾病分類)に照らしたアルコール依存症患者は80万人、KAST(久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)で依存症の可能性ありとされた重篤問題飲酒者は440万人(成人男性の7.1%、女性の1.3%)にのぼります。しかし、病気の性質上自ら治療を求めることは稀なため、実際にアルコール依存症として入院・通院している患者数は2万人足らずです((7):2004)。飲酒運転検挙という機会に、依存症を早期発見・早期治療し、断酒に導くことは、本人の利益であるばかりでなく、悲惨な飲酒運転事故の発生防止に実質的な効果をあげると考えられます。

 1970年代から、飲酒運転の再犯防止に依存症対策を取り入れたアメリカでは、現在、ほぼすべての州で、飲酒運転検挙者に対し、飲酒問題のアセスメントを行なって介入の機会としています。カリフォルニア州やテキサス州などのように、すべての検挙者を一定期間の予防教育に振り向ける州もあります。また、常習者に対しては、裁判所が依存症の強制治療を命じる判決が一般的になっています。実際、アメリカ厚生省の患者調査では、アルコール依存症患者の41.6%がDUI(Driving Under the Influence:アルコール・薬物の影響下での運転)および司法から送られてくるとされています((8):2004)。また、運転免許証の制限や停止などによる罰則だけの対策と比較して、アルコール治療プログラムを組み合わせることにより、飲酒運転の再犯率が約30%減少したという研究((9):DeYoung, 1997)もあり、効果が実証されています。なお、教育・治療にかかる費用は、本人が支払うのが原則で、行政に大きな財政的負担はかかりません。

 飲酒運転撲滅に国をあげて取り組む今、日本にも、警察・司法と保健・医療が連携した飲酒運転再発防止システムの導入が急務であると、私たちは考えます。飲酒問題の教育・治療・回復サポートについては、各県の精神保健福祉センターや全国の依存症治療・回復施設、自助グループが受け皿になることができます。

以上

参考文献

(1)Fell, Jim: Repeat DWI Offenders in the United States. Washington, DC: National Department if Transportation, National Highway Traffic Tech No. 85 February.1995
(2)Lapham, S.C., C'de Baca, J., McMillan, G.P., & Lapidus, J:Psychiatric disorders in a sample of repeat impaired-driving offenders. Journal of Studies on Alcohol, 67(5), 707-713,2006
(3)小畑文也、丸山豊:アルコール依存症患者の飲酒運転に対する意識―自助グループメンバーを中心とした遡及的研究.心身障害学研究、27,173−181.2003
(4)長徹二、林竜也、猪野亜朗、関西アルコール関連問題学会飲酒運転調査委員会ら:飲酒運転実態調査.精神医学 第48第8号.2006
(5)財団法人交通事故総合分析センター:飲酒運転に関する道路交通法の改正効果の分析研究.H17‐01.2005
(6)尾崎米厚、松下幸生、白坂知信、廣尚典、樋口進:わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査.日本アルコール・薬物医学会雑誌,40巻455−470.2005
(7)我が国の精神保健福祉(精神保健福祉ハンドブック)平成16年度版.精神保健福祉研究会監修.2005
(8)Office of Applied Studies, Substance Abuse and Mental Health Service Administration:Admissions by primary substance of abuse, according to type of service, source of referral to treatment, and opioid treatment: TEDS 2004 Percent distribution.  Treatment Episode Data Set (TEDS), 2004

(9)DeYoung, D.J.: An Evaluation of the Effectiveness of Alcohol Treatment, Driver License Actions and Jail Terms in Reducing Drunk Driving Recidivism in California. Addiction 92(8):989-997.1997

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