2002年8月30日

国土交通大臣  扇 千景 様
厚生労働大臣  坂口 力 様

特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
代 表  今成 知美
〒103-0007 中央区日本橋浜町3-19-3 ソグノ21ビル2F
Tel 03-3249-2551 Fax 03-3249-2553

交通運輸機関における飲酒運転を防ぐため
総合的なアルコール対策を求める要望書


 7月7日、JR東海バスの運転手が酒気帯びで蛇行運転し、懲戒解雇になりました。新聞報道によると、この運転手は朝5時半に焼酎をコップ1杯飲み、出勤時には空きビンに焼酎を詰めて持参、途中でコンビニに寄りチューハイ2缶と焼酎1ビンを購入しています。12時半に乗客を乗せて出発するまでにチューハイ2缶を飲み、出発後も途中のサービスエリアで焼酎を口にしたとされています。この一見奇怪な行動は、運転手がアルコール依存症だったと考えると、説明がつきます。体内からアルコールが切れると離脱症状が出て運転どころではなくなるため、あわててアルコールを補給したのではないか、という解釈です。この運転手は「4、5年前から、数回、酒を飲んでバスを運転した」ことを認めており、依存症がかなり進行していた可能性がうかがわれます。
そんな矢先、8月28日朝に、神戸市営巡回バスの運転手が酒気帯びで歩行者をはね、死亡させるという事件が起きました。運転手は「前日の夜に自宅で焼酎のお湯割を4〜5合飲んだ」と供述しています。早朝からの勤務の前夜に、翌朝に残るほどの深酒をしたということになります。
これらの事件は氷山の一角で、飲酒運転は、交通運輸業界全体にはびこっているようです。
 6月には横浜市営地下鉄でも酒気帯び運転が発覚していますし、長距離トラックには常習的に飲酒運転をしている運転手が多いことを、さまざまなメディアが報道しています。
 事件が起きたときに職場が最もよくとる対応は、処罰としての懲戒解雇であり、予防としては点呼時のアルコール呼気検知の実施です。これらは当然の対応ではありますが、背景にある「アルコール依存症」に対する視点が欠落しています。
 点呼時のアルコール検知で実際にアルコールが検知された場合、どのような対応をするのでしょうか。始末書・減給などの処罰で対応するのでしょうか。依存症が背景にある場合は、病気なので処罰では回復しません。あるいは、即、解雇とした場合はどうでしょう。たとえばバス会社を解雇された運転手がトラックやタクシーなど他の交通運輸機関に流れ、また飲酒運転を繰り返して、人命を危険にさらす可能性はないのでしょうか。
 アルコール依存症は放置すれば進行しますが、治療すれば回復可能な「病気」です。早期に発見すればするほど、本人にも職場にも、そして社会にも有益なのです。しかし、飲酒に甘く、依存症という病気についての認識がない日本の職場では、初期の兆候を見逃したりかばったり大目に見たりすることで病気を進行させ、最悪の事態が起きるとあわてて懲戒解雇する、というパターンに陥りがちです。欧米では、この問題に対応するために、1940年代にEAP(Employee Assistance Program=従業員援助プログラム)という方法が編み出され、大企業はもとより中小企業にまで広まっています。
 私たちは、この機に、すべての交通運輸機関(バス・鉄道・タクシー・航空・船舶・トラックなど)に対し、「アルコール依存症への介入」を含んだ総合的なアルコール対策を求めます。
 国土交通省・厚生労働省の連携により、法制化も視野に入れた早急な対策を講じられるよう、以下要望いたします。



1.すべての交通運輸機関に対し、以下の総合的なアルコール対策(第1次・第2次・第3次予防)を義務づける。国土交通省においては厚生労働省と協力のもと、マニュアル等を配布して周知するとともに、専門の相談部署を設置する。


●第1次予防<啓発>……アルコールの人体への作用・害・アルコール依存症の兆候などについて、職員に徹底した予防教育・啓発を行ない、職場のルールも周知する。とくに管理職には、アルコール問題の早期発見の方法や介入方法なども含めて研修する。
●第2次予防<早期発見・介入>……定期健診でのアルコール性疾患のチェックや業務態度、点呼時のアルコール検知などから、早期に職員のアルコール問題を発見し介入して、アルコール依存症専門機関につなげる。(介入を受け入れないときには、解雇もやむをえない)
●第3次予防<治療・職場復帰>……アルコール依存症を病気として認め、差別をしない。他の病気と同様に、治療のための療養休暇や職場復帰上の便宜を図る。


2.上記の対策を業界全体に徹底するための法制化を進める。

以上

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