◆インシュリン草の絶滅

「△月○日。スイゾウ村の友だちから久し振りに手紙がきた。スイゾウ村は奥深い山合いの里で、きれいな川が流れ、静かで一年中涼しいところから、避暑地としても知られている。ところが、手紙によると、最近はどうも騒がしくなっているらしい。村の真ん中を流れるシュスイ川がよく氾濫するようになり、そのため村のあちこちで小さな崖崩れが起きているという。里の象徴でもある美しいインシュリン草が絶滅の危機に瀕しているとか」

 ミス・ハートの記述を読んで、シラーフはとっさに、

「スイゾウ村の出来事がジンゾウダム、ボーコー湖の異変と何か関係があるのでは……」

 と思った。それはほとんど第六感に近かった。もしかすると、シュスイ川の氾濫とジンゾウダムの大量放流とがイメージ的に重なったのかもしれない。インシュリン草の絶滅うんぬんの記述も気になった。

「たしか……、インシュリン草というのは」

 シラーフは前に読んだことのあるこの草のことを必死に思い出そうとした。

「たしか……、そうだ! エ・リキュール・ポワールが書いた『おもしろい植物学』の中にあったと思う。スイゾウ村にだけ育つ珍しい植物で、糖分を葉から吸収し、栄養素として土の中に戻す性質を持っている。そして、同時にすぐ枯れてしまう。土地を肥よくにしようとする各地の人々は、こぞってこの草を買い求めるという。そのためスイゾウ村からは毎日のように各地に出荷されている」

 シラーフは少しずつ思い出してきた。元来記憶力はあまりいいほうではない。

「とくにカンゾウ地区では、余分な糖分を一時的に蓄えておくための倉庫がずらり並んでいるとか。その分、インシュリン草の需要も多い」

 ここまで思い出して、シラーフの目が突然ピカッと光った。

「そうか、もしかすると、川の氾濫→インシュリン草の激減が起きたために、各地の糖分が土の中に吸収されなくなって、そのまま流れ出し、ジンゾウダムに集まってきてしまったのかもしれない。そして、ボーコー湖に放流されていった……」



 一つのナゾが解け出すと、シラーフの目は、大雨が降ったあとの晴天の朝のように澄み渡り始める。

「ちょっとスイゾウ村に寄り道してみるか」

 すんでのところで、この世界に戻れなくなるような大ピンチを切り抜けたばかりなのに、もうこれである。気が多い。
 タイム・アンド・スペーストラベル号に戻り、移動地点をスイゾウ村のシュスイ川のほとりに合わせた。