◆静かなる日々

 静かな日が続いていた。シラーフは、ミス・ハートから手渡された日記帳を、昼間はベランダのイスに腰かけながら、夕方になると、部屋に入って暖炉の前のロッキングチェアにもたれながら読みふけった。

「○月×日。今日も電話をかけたが、だれも出ない。Sさんはいったいどこへ行っているのかしら」

「○月△日。思い切ってモウチョウ地区に行ってみることにした。Sさんの屋敷はガランとして廃墟のようだった。暖炉もここ何日間も使われていないらしく、冷え切っていた。机にはホコリがたまっていた。コロンボの姿もみえない。私をおいて、突然どこへ消えてしまったの」

 Sさんが自分のことを指していることは、シラーフにはすぐわかった。ミス・ハートが心から心配をし、悲しんでいることが伝わってきた。読み進むのが少しこわかった。罪深いことをしているようにも思えた。

 しかし、日を追うにしたがって、ところどころに各地で起き始めている異変の記述がふえ始めた。そんな時、シラーフはむしろホッとしたのだった。



 気持ちのいい昼下がり、久しぶりに木と木の間にハンモックをつるして、おシリからうまく中にすべり込んだ。日記はちょうど10年後のところが開かれていた。

「△月□日、最近、コーガン地区が小さくなっているという。近くのセイノウ池の魚も少なくなったとか」

 非常に短い記述だったが、シラーフにはなぜか気になった。シンゾウ町を初め、カンゾウ町も拡大する傾向にある中でここだけが逆に収縮しているのだ。全体的動きの中で逆の動きをしている部分をみつけて、シラーフの目はキラリと光った。

「コーガン地区か、まだ一度も行ったことがないな」

 地図を広げてみた。かなり南の方にあった。そういえば、シラーフはこれまで、北の方ばかりに行って南の方へは全く足を踏み入れたことがなかった。

「どんなところだろう。どうやって行けばいいのだろうか」

 地図をみた限りでは、経路はちょっと複雑そうですぐにはわからなかった。考え事をしながらいつの間にかウトウトと眠ってしまったらしい。